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◇◇◇
正直、気持ちいいと思ったことはなかった。男の人に抱かれるという行為は、痛みや苦痛を伴うものだと認識していた。だから、葵くんを受け入れることも、先に進みたいという気持ちとは裏腹に、それなりの覚悟はしていた。
けれど、想像していたものとは違う全身を駆け巡るような甘い感覚に、心はひたすら動揺していた。大きくて暖かい手が私を撫で、かき乱す度に快楽が全身を襲う。彼が始終私を気遣っているのが伝わってきて、その優しさにせつなさが込み上げてくる。
「挿れるよ」
「……うん」
遠慮がちに言う彼に、緊張しながらも頷いた。私の要望通りに部屋の電気は消され、こういう日を想定していたのか、持っていた避妊具も付けている。少し驚いたけれど、突然押し倒してくるくらいには切羽詰まっていたことを考えると不思議ではない。
こんなにゆっくりと行為に及ぶことなんて初めてで、油断すると恥ずかしさが襲ってくる。服はとっくに脱ぎ去り、廊下の明かりが薄く漏れて覆いかぶさる身体を照らしている。
ぐ、と入り口に当てられていたものが、中に押し込まれてくる。途端に圧迫感が襲い、大きく息を吐いた。
「大丈夫?」
私の様子を見てか、心配そうに葵くんが言った。大丈夫、と答えるも、余裕のない声が出てしまう。
良い思い出ではないにしろ、何度も経験はあるのに、身体はそんなことなど忘れてしまったかのように固い。ゆっくりと、確実に押し入ってくる感覚が徐々に大きくなっていって、私の呼吸も比例して増す。
は、と吐き出す彼の息遣いが、至近距離で届く。気持ちいいのかな。そう思うだけで嬉しくなって、心臓が締め付けられた。
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