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「ちょっと、まって……」
「なんで?」
なんで? え? なんでだろう。そう聞かれると困るけれど、とりあえずは思考が追い付いていないから待って欲しい。
だって、今までずっと普通に話してたじゃないか。ゆっくり話すの、久しぶりだねって。今日は用事があるって言ってたから、ダメ元で誘ってみてよかった、って。そうしたら突然視界が反転して、勢いの割には優しく、床に組み敷かれていた。
いつどこで彼のスイッチが入ってしまったのか分からないけれど、そういえば、私の言葉に対して少し余裕の無さそうな表情を見せていたかもしれない。
「俺もずっと会いたかったけど、花さんは平気なんだと思ってた」
先ほどと同じ表情でそう言い、熱い瞳が注がれる。そう思わせてしまっていたのは、私がなにも言わないからだ。今日誘ったのだって本当に気まぐれで、あるいは心のどこかで限界を感じていて、気づいたら指先が動いていたのだ。
「そんなこと、ないよ」
私の言葉に僅かに表情が緩んだ。その様子に安心したのも束の間、遠慮がちに乗せられていた身体がずしりと重くなる。突然の圧迫感に苦しくなり、息が漏れる。
「ちょ、と……、ひっ」
首筋を舐められる感覚に、思わずおかしな声が出た。ぐいぐいと顔を埋められ、柔らかい髪の毛が頬を撫でてくすぐったい。
脇腹に葵くんの手が這い、そのまま服を捲り上げられる。肌が外気に触れ、途端に心が焦りだした。
「ま、まって……!」
「無理」
「やっ、……葵、く」
少し暖かい彼の手が、腰から上へとゆっくり撫で上げていく。首元で濡れる感覚は次第に鎖骨へと下がっていき、時折、強く吸い付かれた。
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