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「花さん、どうしたの」
心が安堵し、涙が溢れてきた。心配なんてさせたくないのに、一度流れた涙はなかなか止まってはくれない。
「なんで泣いてるの」
「ご、め……っ」
「痛かった?」
首を横に振り、その手を自分の頬に押し当てた。暖かい温もりに縋るように頬を寄せる。そんな私の行動に驚いたのか、息を呑む気配が伝わってきた。
「嫌な事、思いだした……?」
遠慮がちな言葉が核心をつき、答えが出てこなかった。それを肯定ととったのか、押し当てた手の親指がそっと頬の上を撫でる。
「大丈夫、花さん。大丈夫だよ」
囁く声音がこれでもかというほど優しさを含んでいて、余計に涙が止まらなくなった。目尻から流れ落ちていく水滴に唇が寄せられ、そっと身体を抱きしめられる。密着した場所がじんわりと暖かい。
「何も考えなくて大丈夫。俺しかいないから」
「……う、ん」
反対の手が私の頭をそっと撫でる。その声から、体温から、優しい温もりが私の中に染み込んでいく。大丈夫、と言ってくれる言葉が、魔法のように私の心を落ち着かせていく。
しばらくその体勢が続き、もう平気、という意味を込めて頬に触れていたままの手を離した。密着していた身体が離されていき、心配そうに葵くんが私を見つめる。今度は私から手を伸ばしてそっと口付ければ、驚いたように丸くなった瞳が安心したように細められた。
私の手を絡めとり、ベッドに縫い付けるようにぎゅっと重ねる。様子を窺いながらも再びゆるゆると動き出し、頬にキスを落とす。
「花さん、好きだよ」
「ん……、あっ」
「ねぇ、花さんは?」
再び襲い来る快感が柔らかな声と交じり合って、私の身体の中へと溶けていく。優しくて、気持ちよくて、先ほどまであった不安など思い出せないくらいに私をとろけさせる。
「わたし、も、……ぁんっ、すきぃ……っ」
「ん、嬉しい」
全身に幸福感が満ちていく。私は本当に、この人が好きだ。こんなにも私のことを思ってくれる人と出会えるなんて、奇跡なんじゃないかと思う。
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