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駄目だ、これは、このままだと流されてしまう。まだキスまでしかしたことがないのに、初めてがこんな訳の分からない状態でなんて嫌だ。せめて、心の準備をする時間が欲しい。
「待って、やっぱり、ダメ!」
「なんで?」
再びの「なんで」に頭が混乱しだす。なにか良い理由があればいいのに、こんな状況では思いつくはずもなく、なんでだろう、と頭の中でぐるぐると考える。
「だ、だって、えっと……っ、葵くんは、その、まだ未成年だから……!」
「は?」
ぴたりと動きを止め、素っ頓狂な声を上げて葵くんが私を見た。そりゃあそうだ。私だって、自分で言った言葉の不明さに呆れている。
「え、えっと……」
なにか言わなければ。と焦る私と、目を丸くして答えを待つ葵くんとの間に、微妙な空気が流れている。
未成年だから犯罪だ、なんていう理由が通らないことくらいは彼も分かっているだろう。仮に、恋人関係でもなく、同意もない行為であれば犯罪として成り立つのかもしれないけれど、その場合に捕まるのは彼ではなく私じゃないのか。え、私捕まるのか……?
痛い沈黙を破るかのように、テーブルの上で大きな音が鳴った。携帯のバイブが振動している。食器に触れているせいか、やけに響く音に大げさにびくついた。
葵くんが起き上がり、テーブルに目を向けた。途端に身体が軽くなり、ほっと呼吸を繰り返す。
その手にとったのは、彼の携帯だった。画面を見つめる顔が嫌そうに歪むので、あまり話したくない相手なのかもしれない。指先が触れそうになるのを見て、素早く言った。
「出て」
ぎくりと固まるのを見て、予想通りだと確信する。切ろうとしていたのだ。私にちらりと視線を向けるので、わざと見つめ返した。諦めたように息を吐くと、画面に触れて耳に当てる。
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