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翌週、あんなことがあった手前、すぐには会えないだろうと落胆していた俺に反し、花さんから連絡がきた。映画を見に行こうという、いつも通りの誘いだった。バイトで時間が取れないことを気にしてか、近場のレイトショーを探してくれたらしい。
行く、と二つ返事で送ると、『早いよ』とおかしそうに笑う猫のスタンプと一緒に送られてきて、緊張していた心が解れた。
もしかしたら、案外気にしていないのかもしれない。きっと俺なんかよりも全然心の余裕があって、あの時は突然すぎたから驚いただけで、今は冷静に、過去の出来事として受け止めているのかもしれない。
引きずっているのは俺だけだ。そう思ったら心が軽くなって、同時に虚しくなった。また、ふりだしに逆戻りだ。
「葵くん、ごめん、お待たせ……っ」
土曜日の夜、映画館の前で待っていると花さんが走って来た。待ち合わせの時間から二十分以上が過ぎている。珍しく遅刻だ。
「ごめんね、ごめん」
「全然平気だよ。まだ始まってないし」
そうは言っても開始の時刻が迫っていたので、手をとって建物の中に入る。
息を切らせる姿を横目で見るも、至っていつも通りだ。小さな鞄に、見たことのある私服。遅刻してきた理由が見当たらない。土曜なのだから、どこかに出かけていたのかもしれない。
「今日、どっか行ってたの?」
聞くと、不思議そうに丸い瞳が見上げてくる。
「ううん。家から来たよ」
「もしかして寝てた?」
「え、……あっ、違うの、ちょっとあの、支度に手間取っちゃって……」
何故か言いづらそうに下を向いてしまったので、それ以上は聞かないでおいた。
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