リザルト

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 魔法陣無しで、裏鏡(りきょう)は魔法を使ったとでも言うのだろうか。  思考の袋小路に入ってしまった御玲(みれい)を悟ったのか、パオングは右手に乗ったままの二枚の魔法陣を畳むように消してみせた。 「そなたら人間のほとんどはまだ知らぬようだが、魔法陣というのは基本、味方と目される者以外が存在しうる場所で表示してはならない。何故だか分かるかな?」 「えっと……隙になるから、でしょうか」 「それもあるな。だがそれが主ではない。御玲(みれい)殿、あの戦いを見ていて、裏鏡(りきょう)がいかなる魔法を使ったか。理解できたかな?」 「いえ……正直、何をしているのか皆目分からないというのが、恥ずかしながら感想ですが……」 「そう。まさしくそこである」  パオングは鼻を唸らせ、パァオング、と呟く。そして意気揚々と再び右手のひらに魔法陣を出現させた。 「よいか? 魔法陣とは情報だ。その魔法を発動するに必要な情報と、その魔法自体の情報……その全てが記述されている。それを敵の前で見せるとはすなわち、敵に自分の手の内を親切に教えるようなもの。相手が有利になるような情報を自ら晒すなど、その時点で対策されるか、最悪勝敗が決してしまうようなものぞ」 「い、言われてみればたしかにそうですが……そんなことできるんですか……? 魔法陣なんて、勝手に出現するものでは……」 「それは制御できていないだけである。魔法陣の非表示は、魔導師の基礎技量の一つぞ」 「では魔法の詠唱も……」 「敵の目前および敵地では、無言詠唱が原則である。呪文を叫ぶなど、敵に何の魔法を使うか教えるようなものであろう」  パオングの魔法談義に、気づけばただただなるほど、としか言えなくなっていた。  だから裏鏡(りきょう)はいつもいつも無言で、何の前振りもなく魔法を使ってくるのだろうか。正直、そう納得せざる得ない自分が少し悔しい。
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