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「とはいえ無言詠唱の有用性は、相手の魔法への理解に左右される。あまり情報の隠匿にこだわると魔法の精度は低下する。相手と自分で魔法への理解に大きな差がある場合、隠したところで相手は理解できぬのだから、精度を優先した方がよいと考えた上で無言詠唱をあえてしないのも戦略の一つ。相手に理解できない魔法を目の前で使えば、それだけで一定の牽制効果が見込める故にな」
「魔法というのは、とても奥深いものなんですね……」
「この世界に存在する叡智の一つであるからな。その深淵を、片鱗でも手にするのは至難の業ぞ。だが……」
彼を品定めしているような濃い眼差しで、呆然と立ち尽くす裏鏡をじっと見つめる。
「奴の魔法戦術……まさか」
「パオングも気づきましたか」
唐突に己の世界に没入する二人。置いてけぼりを食らいたくないので、パオングの方へ視線を向ける。
「む? ふむ……はて、どう説明してやるべきか」
「できれば簡潔にお願いします」
「中々に無茶な注文である。まあいい。我は我欲の神であるからな、成し遂げてしんぜよう」
手のひらに白い魔法陣が浮き上がると、白く光る微粒子たちが魔法陣上に集まり、人の姿を模っていく。完成したそれは、裏鏡水月の体内を表した立体ホログラムのようなものだった。
「結論から述べると、奴は数多の魔法をあらかじめ体内に仕込み、それらを任意に具現化している。といったところである」
立体ホログラムで描かれた裏鏡の身体に青白い筋が、血管のように張り巡らされていく。その筋の中に様々な色をした魔法陣が血液のように循環する。
「体内で魔法を詠唱しているってことですか」
ホログラムを見ながら呟く。
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