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裏鏡は澄男との戦いの中で一切詠唱をしていなかった。魔法陣を描いた様子もない。だとしたら体内で魔法を詠唱し、それを即座に放っているということなのだろうか。
「それではあの戦いを説明できない。既に詠唱済みの魔法を、任意に具現化しているのだ」
「可能なんですか、そんなこと……」
「理論上、不可能ではない。実際、我が魔道具``我欲の笛``も、同じ理論で創造したゆえにな。だが人類規格の肉体を媒体にするとなると、話は変わってくる」
ホログラムで構成された裏鏡の身体が青白く輝き始めると、ドロドロとホログラムの身体が溶け始める。まるで融点に達した金属のように、ホログラム裏鏡はただの液体へ姿を変えていく。
「我が見る限り、裏鏡が体内に有している魔法の数は膨大だ。魔法の数が多いほど、発動に必要な霊力と要求される制御技量は高くなるのは想像がつくと思うが、当然容量を超過する霊力量を体内に含有することはできぬ。超過した分は体組織の過活動を誘発させ、融解させるに至る」
「でもそうはなっていない……」
「うむ。ならば事実と合致させるにはどうすればいいか。単純な話、それだけの霊力量に耐えうる強固な肉体を獲得すればよい。肉体改造を経て体内霊力許容量を拡充すれば、あとは術者本人の霊力制御技量次第となる」
ドロドロに溶けたはずの裏鏡の身体が一瞬で再構築され、再び様々な色をした小さな魔法陣が、血液のように循環系を駆け巡る。
「で、ですが。そんな大それた肉体改造……可能なんですか。彼一人の力で」
率直な問いかけを投げてみる。
ホログラムを見ながらパオングの魔法講義を黙って聞いて、カラクリはあらかた理解した。だが疑問は、大量の魔法を抱えられるほどの肉体改造を、彼一人でできるのか。そこだけが拭えない。
パオングの話からして、その肉体改造とやらは絶対に少し体を弄る程度でできるものとは思えない。専門知識が無いため間違えているかもしれないが、少なくとも体の中身から何までごっそり変えるぐらいの、大規模な肉体改造をしないと実現できないような気がする。それも今の人類の技術では到底不可能な、オーバーテクノロジーで。
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