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裏鏡水月は強大な戦闘力こそ持つが、所詮ただの個人にすぎない。
確かに大陸八暴閥の一角、裏鏡家の当主、四強の一人という盛大な肩書きを持った人物ではある。でもそれはあくまで肩書きだ。
流川家のようにバックヤードがあるのかもしれないが、今のところ彼以外に裏鏡家の関係者が存在するという情報は存在しない。
流川家すらも知らないだけ、という可能性も十分に考えられる。だがもしバックヤードがある前提で考えるとしたら、裏鏡水月、延いては裏鏡家そのものが、流川家と同等―――あるいはそれ以上の技術力を持っていることになる。
そんなことが、果たしてありえるだろうか。
「だからこその、事象操作であろう」
思考に耽け、やはりというべきか袋小路に入ってしまう御玲をよそに、パオングは長い鼻で頬を叩いてきた。
「裏鏡水月に関してわかっていることは一つ、超能力者であることだ。ならばこの戦いに備え、現実離れした超常的な肉体改造を、あらかじめ己に施していたとしてもありえぬ話ではあるまい」
「しかし裏鏡の超能力が何なのか、私たちには……」
「そなたらが超能力と呼ぶそれは、いわばその者の``身勝手``の結晶。特定の個のみが有することを許される、唯一無二の権能である。重要なのは全能性とその本質。それらを見定められなければ始まらぬ」
「ではパオングは、裏鏡水月の超能力をどう見定めているんですか」
「そこよな……」
パオングが珍しく歯切れの悪い、そして神妙な面差しで考え込む。いつも悠々自適に、全ての疑問に難無く答える姿しか見たことがなかっただけに、真剣に考え込む姿は言い知れぬ不安を募らせる。
「不甲斐ないことであるが……」
結論が出たのか。顔を上げるが、その表情は暗澹なものであった。
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