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敬語を投げ捨て、負けじとその瞳から放たれる眼光に食らいつく。
もはや敗者に興味はない。そう言っているように思える背中が、神経を逆撫でするのだ。このまま彼を帰してしまっていいものか、と。
確かに澄男は負けた。決着などわざわざ詳しく語るべくもない。しかし裏鏡の理不尽な振る舞いも、看過されるべきものではないはずだ。
元より澄男に裏鏡と戦う理由は既にない。それなのに裏鏡は己の暴威を誇示し、無理矢理に戦わなければならない状況を作り出した。
戦う理由などありはしないのに、戦わされた。なら―――。
「私の主人は、まだ負けてない」
目を細め、しかしどこか興味深げにこちらへ向き直る裏鏡をよそに、澄男は目を丸くして、はぁ? と叫ぶ。いや俺負けたじゃん、見てなかったのかよ。と台詞が顔に書いてあるが、そんなことは知ったことではない。
「確かに澄男さまは負けた。でもこれって、いわばただの喧嘩でしょ? 試験じゃあるまいし、こんな喧嘩で澄男さまとの強弱を決めるなんて馬鹿げてるわ。そう思わない?」
「負け惜しみか、雑兵」
「それを言うならあんたもよ。あんたは一度、澄男さまに白星を預けて撤退した。あんた言ってたわよね? 撤退とはすなわち敗走だって。だから再戦を申し込んだ。だったら次は、こっちから再戦を申し込む権利が発生するはずよ」
「お、おいお前、さっきから何言って」
「あなたは黙ってて!」
「んぉ!? あ、はい」
肩を鷲掴んでくる澄男を振りほどき、強く睨んで諌める。殴られると思ったが、彼は意外にも気圧され、まるで子供のように小さくなり後ずさった。
意外と効いたことに内心驚きながらも、黙ったままの裏鏡へと視線を戻す。
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