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いや、分かってはいたんだ。結末なんて考えるまでもない。
負けは決まっていたことだ。アイツはそんな事はお構いなしに、俺との決着を望んでた。アイツにとっては白星返上を賭けた喧嘩だったんだ、勝ちにこだわるアイツの性格を考えれば、逃げ隠れする方が馬鹿らしいってもんだが、実際に戦ってみると、たとえ負けることがわかっていても、力の差はあまりにも歴然としてやがった。
手も足も出ない、足元にも及ばない。なんで負けたのか、何をされたのかすら分からないまま、俺は負けたのだ。
今までいろんな戦い、喧嘩をやってきたが、こうもわけのわからないまま一方的にブチのめされて負けたのは生まれて初めてだ。その証拠に、自分が負けた瞬間を頭ン中で何度も何度も延々と思い起こしている。
無意識に、何で負けたのかを自分なりに知ろうとしているんだろう。考えたって九割筋肉のこの頭じゃ、分かるはずもないのに。
「過去を無意味に思い返しても時間の無駄です。切り替えていきますよ」
気がつくとパオングが魔法陣を既に描ききり、後は俺が魔法陣の上に立つだけになっていた。御玲は俺の腕を掴んで引っ張る。
そんなことはわかってる。でも悔しいんだよ。
自分の攻撃っていう攻撃が一切通じず、敵の手の内を暴く暇もなく、気がついたら負けていた。
少しでも自分のやり方が通じてたらまだ良かったし、それでも負けるだろうなって思いで戦ってたけど、手も足も出ず相手が何をしていたかも分からないまま一瞬で、一方的に敗北に追いやられるってのは、単純に悔しい。ただただ悔しい。
そんなことがあっていいものかと、馬鹿みたいに言ってやりたい。その相手がもう、ここにいないんだけども。
「澄男さま、この際なので一つ言っておきます」
はぁ、と肩を落とし大きなため息をついた御玲は、俺の両手をとり、優しくそのほんのりと冷たい手を重ねてきた。
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