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「あなたのやるべきことは何でしたか。忘れてはいないでしょう?」
俺のやるべきこと。ああ、知ってるさ。
守るべきものは死んでも守り切れる、そんな大英雄になってみせる。ガキの頃から夢見てきたその理想を叶えるのが、俺が掲げる次の目標。
「ならば、裏鏡水月にもたらされた敗北が何だというのです? むしろ、悶々と悔し涙を心中で流すのではなく、やるべきことを確実になすために、その戒めとするべきでしょう」
「戒め……?」
「そうです。あなたは自覚が薄いと思いますが、世界は広い。流川本家の家長となり、怨敵であった流川佳霖をも討ち滅ぼした今、あなたはこの広大な世界で理想を抱き、それ叶えるために生きなければならない。それがどんな意味を持つか、お分かりですか?」
「どんな意味って……ンなこと言われても」
想像したこともなんてねぇよ、世界なんて。そう言おうとした口は、一切濁りのない青く澄んだ瞳から放たれる眼力によって阻まれる。
こんなことを言うのは情けないとは思う。というかその自覚があるくせに、と思われるだろう。俺は外の世界のことなんて、ほとんど考えたことがないのだ。
今までやりたいことをやりたいだけやってきた。十六年の人生、いずれきたる戦いに備えるため、そのほとんどを修行に費やす。ただそれだけをやってきた。
だから外の世界のことなんて一切興味がなかったし、持とうとも思わなかった。いずれきたる戦いを想定してる奴が世界に興味を持たないってどうなの、と思うかもしれないが、重要なのは戦いの内容よりも、最後は結局強大な力をもって敵を討ち滅ぼすことなのだと、ずっと考えてきたから。
その人生に後悔はしてない。もうそんな中身の無い生き方が通じないのは、今回の復讐で身に染みて分かったつもりだ。
でも言っちまえば、まだそれだけしか分かってない。外の世界なんて、目も向けたこともなかっただけに。
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