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招待状
「この前にもいたよね、君たち」
ある講演会の帰り、どこかで見たことがある男に話しかけられた。絶対に見覚えがあるのだが……。
「ほ、北海道知事」
キソラは驚いて呟く。あぁ、そうだ、北海道知事だ。ポスターやテレビで見たことがある。
「ま、そうだが口外はしないでほしい。ここへはプライベートで来ているのでね」
「わ、わかりました」
だがそんな偉い人が俺たちに何の用だろうか。
「君たちに耳寄りな情報がある。だがとても危険な内容でもある。
君たちが安全をとるというなら私のことは忘れて早く帰ってもらってもかまわない。だが本気で今の日本に憂いているのなら是非聴いてほしい。
よく考えた上で決めてくれ、私の話を聴くかい?」
聞くだけで危険のあるほどの案件……。とてもきな臭いが。
「聞きます」
キソラは即答した。日本を変えることに命を懸けている奴だ。当然かもしれない。
「敷島君は?」
「俺も聞くよ、もちろん」
ここまで来てキソラだけに投げるのはおかしいだろう。
「うむ、いい覚悟だ。来週末のこの時刻、近くの「あかり」というバーに集まってくれ。日本を本気で変えたいと思っている人たちだけが集まる会議だ。主催として私が北海道知事の名誉をかけて望ましてもらうから安全性は保障されていると思ってもらっていい。だが内容は明らかに政府の意向に望まないものだ。ばれたら公安警察に狙われるだろうし下手したら適当な罪状で捕まるかもしれない。そのあたりをよく考えてほしい。それでもいいというなら来週待っている」
あぁ、やはりきな臭い。明らかに内容が非合法な会議への招待。キソラと出会う前の俺なら絶対に関わらなかっただろう。
「知事、あなたは大丈夫なのですか? あなたが最も公安につけられてそうですが」
少し悩んだキソラが質問する。
「それは大丈夫。ここだけの話、私はいま東京にいる。東京に二週間ほど滞在する予定だ。そんな予定の知事が来週非合法の会議などに出られるわけがない」
ん? どういうことだ?
「なるほど。用意周到ですね」
キソラは笑って答える。
「来週、機会があれば行きます。まぁ前向きにとらえてください」
「わかった。期待して待っていよう」
そう言って彼は去った。
「キソラ、どうする? というか東京にいるってどういうことだ?」
「一応行く予定。内容が非合法だろうと私は目的のためならそれくらいの危険、冒して見せる。
東京の件は影武者でもいるってことでしょ。なるほど、さすがだわ。
敷島君は知事についてどれくらい知ってる?」
北海道知事。正直ポスターで顔を見て、あと選挙の当選会見で何か言っていたぐらいの記憶しかない。そういうと。
「まぁでしょうね。多分世間もそんなものなのかな。
彼は立派な人よ。私が北海道に来た理由に一つでもある。彼は私と同じような主張をしていて、人の尊厳を奪うような過度の社会の機械化に反対している代表的な人物なの。
私みたいに志があるだけの一般人とは違ってその志そのままに知事にまで上り詰めた。北海道の教育制度が東京みたいに無機質な機械化されていないのは彼のおかげよ」
なるほど、そんな人もいるのか。たぶん彼はテレビやポスターでそのことを訴えていたのだろう。しかしそれでも興味がなければ知ることすらできない。自分から調べようなんて思わないし。これも考えないことの弊害なのかもしれない。
「敷島君は行く?」
「もちろん、手伝うって言ったからな」
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