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両チームがホームベース前に向かい合って整列すると、「ありがとうございました」と言い深く頭を下げた。センターの奥からサイレンの音が鳴り響く。
十一月三日、宗助たちの秋の高校野球新人戦は終わった。宗助は、大きなスポーツバッグとグローブをひっかけたバットを持つと、コンクリートのベンチを後にする。そして、母の運転する車の後部座席に帽子のひさしを深く下げて乗り込んだ。
「宗ちゃんの、うそつき!」
妹にそう言われ、宗助は、「ごめんな」と答えると、さらに帽子のひさしを下げてうつむいた。泥だらけのユニフォームに車窓から差し込んだ夕陽の光が当たる。窓を少し開けると、冷たい風が吹き込み、宗助の頬にのった汗を吹き散らした。
「別に勝たんくたってよかったの。あたしは、宗ちゃんが打つホームランが見たかっただけ。昨日、約束したのに……」
宗助がちらりと目線を上げると、妹の瑞妃が、怒ったようにぷいと横を向いた。
昼間はよく晴れて暖かかったけれど、陽が傾くにつれて伊吹おろしが平野に流れ込み、真冬のように冷え込んだ。
この日以来、宗助は瑞妃に、ことあるごとに『うそつき』呼ばわりされている。宗助は、まったく口の減らない妹だとは思ったけれど、あの日の三振は、相手のピッチャーが投げたど真ん中の直球をとらえ損ねたのだから、宗助にとっても悔しい一振りに違いなかった。
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