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◇◇◇
「綺麗! 異次元の美しさやね。やっぱ桜しかかたんわ」
そう言うと瑞妃は、ため息を漏らした。
「かたんって何。今どきの若い子の言葉ってよくわからんわ。それにしても、瑞妃、よう頑張ったわね」
車を運転する母の顔は、晴れ晴れとしていた。
朝には降っていた雨も上がり、昼頃には暖かい春の日差しが戻ってきた。周囲の景色や川面に陽光が反射し美しく輝いている。
桜の開花が、先週の冷え込みで少し遅れたので、タイミングよく今日四月三日が満開だった。天も瑞妃に味方したのかな、と宗助は思った。
視線をフロントガラスの外に向けると、彼方まで桜のトンネルが続いている。
「兄ちゃん。ありがと」
「どした? 瑞妃。急に改まって」
「兄ちゃん。ごめんな」
「どした? 急にしおらしくなって」
「あんな凄いホームラン、初めて見たわ。……何度も『うそつき』て言って本当にごめん」
「瑞妃は、何にも謝らんくていいんだぞ。俺は、今、幸せなんや。この幸せは、瑞妃が命懸けで手術を受けてくれたからあるんや。兄ちゃんな、夏の大会が終わったら野球やめることにした」
「え? 何で?」
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