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◇◇◇
「宗助、ちょっとこっちへいらっしゃい」
その日の夜、宗助は、母に呼ばれて居間のソファーに座った。
「瑞妃が、手術を受けないって一点張りなの。宗助からも、ひとこと言ってくれない?」
俺より母さんが説得した方がいいにきまっている。でも、それが叶わなかったから母は自分を頼ったのだろう。そう宗助は思った。
…………
瑞妃は、一歳のとき、全身にチアノーゼの症状が現れた。病院の医師の診断により、先天性の心疾患があることが分かりすぐに検査入院した。左右の心室を隔てる壁に穴が開いていたのだけれど、体の成長とともに、穴が自然に閉じることもあるので、一旦は退院して様子を見た。でも、うまく閉じなかったらしく、三歳のときカテーテルでの手術を受けたのだ。
宗助は、幼いながらに妹の胸にほとんど傷がつくことなく命を長らえて、嬉しかったことを今でも覚えている。
…………
「俺、瑞妃に『うそつき』だと思われてるからさ、説得しても効き目ないかも」
「けどね、今度は胸を開かんとだめみたいなの。瑞妃にとっては、本当に辛いことだと思う。傷も残るしね。命懸けってやつだから、おじけづく気持ちもわかる。でも、このまま放っておくと、中学の卒業式を迎えられるかどうかわからないの」
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