うそつきホームラン

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 ◇◇◇  年が改まり、瑞妃が、初めて中学の制服を着た。瑞妃は、ツインテールにしていた髪を解き流し、真新しいブレザーを羽織る。首元に赤いネクタイをつけると、ついこの前まで、おませなちびっ子だった瑞妃が、宗助には妙に大人びて見えた。  瑞妃は、中学校への入学が楽しみで仕方ないらしく、母の前で何度も制服姿でくるくると体を回転させてみせる。    宗助が、それを見て目を細め笑うと、瑞は、急にちびっ子の瑞妃に戻りあかんべーをした。  …………  そんなとき、居間のテレビで、昨年撮影された木曽岬町の桜並木についてのニュース映像が流れた。  鍋田川の堤防沿いに、数キロにわたって桜並木が続いている。どの桜も植樹されてから年数が経っているので、背が高く枝が張っている。車で走ると両側の桜が左右から覆い被さるように枝を伸ばしているので、さながら桜のトンネルをくぐっているように見えた。  「瑞妃。今度、ここ行こう。木曽岬の満開の桜観に連れて行ったるわ。きっと入学式前くらいが見ごろだぞ」  「どうせまた、嘘に決まってるんでしょ。兄ちゃんのこと、信じられんもん」  久しぶりに口を開いたかと思ったら、またこれだ……。宗助はいまいましく思いながらも、本気で瑞妃を桜のトンネルに連れて行ってやりたいと思った。でも、それには、車を運転する母の了解をとらなければならない。  母に訊くと、「いいよ。瑞妃が行きたいなら大丈夫。丁度春休みに仕事が空けられる日があるから」と了解してくれた。  ところが、その日の夕方、瑞妃の様態が急変した。  「うそつき……」  そううわ言で言っている妹を救急車に乗せ、市立病院まで搬送した。 .
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