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選抜の初戦は、来週の金曜日。開会式と同日の三試合目だ。でも、母も瑞妃も、遠い球場まで来られるはずはない。きっとテレビで観るのだろう。宗助はそう思った。
◇◇◇
幸い菜種梅雨に見舞われることもなく、初春の柔らかな青空が広がっている。刷毛ではいたような雲が細く流れるように上空に浮かんで見えた。ホームベース前での挨拶が終わり、宗助はサードの守備についた。
…………
初回、味方のピッチャーの信二が、緊張していたからだろうか、ワンアウトも取れないまま、二者連続フォアボールを出してしまう。三人目を何とかセカンドごろに打ち取るが、セカンドランナーは三塁に進塁した。
相手のバッターは左打ち。スラッガーとして定評のある大物選手だ。信二が投げたボールが、スラッガーの胸元に入った。相手打者は、狙いすましたようにボールを弾き返す。ボールは空に吸い込まれるようにどんどん上昇し、ライトスタンドの上段に消えた。
豪快なホームランだ。宗助のチームは、あっという間に三点を失った。
すぐにキャッチャーがタイムをとり、内野手全員がピッチャーマウンドに集まる。
「心配するな。俺たちが守ってやるから、思い切り打たれてこい!」
キャプテンの雄真が声をかけた。すると他の皆も、「俺のところに強烈なライナーを頼む」「スタンドに入る打球だって、取ってやるぜ」「独り相撲は嫌いやで。俺らにも活躍させてくれ。どんどん打たせろ」と口々に言い、信二を励ました。
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