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その後、落ち着いたからだろうか、信二は続く二人の打者を浅い外野フライと内野ゴロに抑えた。
攻守が入れ替わる。しかし相手のピッチャーは、ドラフト候補に間違いなく上がるだろうと言われている本格派だ。時速百五十キロメートルの速球に変化球を混ぜられたら手も足も出ない。
宗助も、三打席目まで、三振二つにセンターフライ一つ。おまけに七回の表には、相手の打線が息を吹き返し、二点を追加された。五対ゼロ。このままでは勝ち目がない。そう思ったとき、宗助は監督に呼ばれた。
「宗助。今、学校から電話があった。よく聞け」
「はい」
「バックネット裏の内野席に、お前のご家族が到着したそうだ」
「え? 俺の家族? 本当ですか?」
「本当だ、嘘だと思ったら確かめてみろ」
宗助は、ベンチから身を乗り出してバックネットの方を確認する。そして驚いた。確かにそこには母の姿があった。そしてその隣になんと、瑞妃が座っているではないか。まだ調子が悪いのだろう。その顔に精彩はなかった。
「監督。ありがとうございます!」
瑞妃のあほ。何しとんのや!
宗助はそう思ったが、きっと母が、この試合に賭けたのだろうと気が付いた。宗助は、「打ってこい」という監督の声に押し出されるようにしてネクストバッターズサークルに向かう。
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