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九回の裏ツーアウト。走者はいない。五点差で負けたままだ。
しかし、俺はまだ負けてはいない。これからが本番だ。そう宗助は思った。
宗助は、立ちあがり素振りを二度してからバッターズボックスに向かうが、途中で立ち止まり振り返ると、バックネット裏の瑞妃と視線を合わせる。そして、『うそつきだ』と言ってきかない妹の元気な姿を思い浮かべながら、妹にガッツポーズを送った。
グラウンドを向き直ると、手のひらで自分の頬をばちばちと二回叩き左のバッターボックスに入る。
…… 瑞妃だって、命懸けでがんばっとる。俺が命懸けで打たんでどうするんだ ……
宗助は、相手のピッチャーを睨みつける。相手のピッチャーは帽子のひさしを下げてキャッチャーからのサインを確認すると、軸足に体重を乗せて振りかぶった。
宗助もバットを構え大きく目を見開く。ピッチャーの腕が勢いよく振り下ろされた。矢のようなストレートだ。縦にスピンがかかっているのか、キャッチャーミットに向かって反りあがるように浮き上がってくる。
宗助は、高めの甘い球だと判断して、切れよく腰を回転させバットを振るが、予想をはるかに超えた伸びのある速球が勝り、バットが空を切った。
バシッという音をたててボールがキャッチャーミットに収まる。審判が拳を上げて『ストライクワン』を宣告した。
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