243人が本棚に入れています
本棚に追加
お互いジョッキに口をつけると、一気に流し込む。
夏なら格別だろうが、今は冬。外を歩いてきたばかりの体にこの冷たさは、少しばかり堪える。
早めにジョッキを置くと、そのまま目の前の枝豆に手を伸ばした。
平野の方は、半分意地になっているようにビールを呷り続け、半分飲み干すとようやくドンッと音を立ててジョッキを置く。
いきなりやけ酒かよ。知らねーぞ……ったく。
俺は心の中でボヤく。平野とは今まで何度も飲んでいるが、俺よりか相当酒に弱い。
家まで電車で帰らなきゃなんねーのに、酔っ払い連れて帰るのは正直面倒だ。
「お前、ちゃんと帰る事も考えて飲めよ」
呆れながら平野にそう言うと、すでにアルコールが回り赤みを帯びた目で「分かってる」と答えた。
いや、すでにやべーよ。
そう思いながら口には出さずに、側にあった皿と箸を平野に渡してやる。
それを受け取ると、すでにテーブルに置かれていた、だし巻き卵に箸を入れた。
「あのさー……長谷。あの人、ほんとに結婚すると思う?」
いきなりの直球にいささか驚きつつも、顔には出さずに枝豆をまた口に放り込む。
「さぁ。でも、するっつってんだからするんじゃねーの?」
興味なさそうにそう答える俺に、平野は顔を顰めて「他人事だな」と言った。
「いや、そうだろ」
俺がすかさずそう言うと、平野は苦々しい顔でまたジョッキを持ち上げた。
うちの厄介なボスは、日本に帰ってくるまで相当遊んでいた。
本当に、全員清々しいまでに遊びなのは俺でなくても分かる。誰一人本気じゃないどころか、興味すらないだろう相手と平気で関係を持つような男。
……だった。
それが、いつの間にか変わって行ったのは、日本に戻ってしばらくしてから。
遊び相手を全員切って、誰の誘いにも乗らなくなった。
ようやくこの人も心を入れ替えたか、なんて俺は呑気に眺めていたが、なんの事はない、唯一無二の相手を見つけただけの事だった。
その相手はボスのマネージャーとして俺達の前に現れたが、さすがに最初はその相手だとは気づかなかった。
たぶん、先に気づいたのは平野の方。
なんだかかんだで、ボスの姿を目で追いかけてたんだから、その変化にもすぐに気づいたんだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!