俺とあいつ

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お互いジョッキに口をつけると、一気に流し込む。 夏なら格別だろうが、今は冬。外を歩いてきたばかりの体にこの冷たさは、少しばかり堪える。 早めにジョッキを置くと、そのまま目の前の枝豆に手を伸ばした。 平野の方は、半分意地になっているようにビールを呷り続け、半分飲み干すとようやくドンッと音を立ててジョッキを置く。 いきなりやけ酒かよ。知らねーぞ……ったく。 俺は心の中でボヤく。平野とは今まで何度も飲んでいるが、俺よりか相当酒に弱い。 家まで電車で帰らなきゃなんねーのに、酔っ払い連れて帰るのは正直面倒だ。 「お前、ちゃんと帰る事も考えて飲めよ」 呆れながら平野にそう言うと、すでにアルコールが回り赤みを帯びた目で「分かってる」と答えた。 いや、すでにやべーよ。 そう思いながら口には出さずに、側にあった皿と箸を平野に渡してやる。 それを受け取ると、すでにテーブルに置かれていた、だし巻き卵に箸を入れた。 「あのさー……長谷。あの人、ほんとに結婚すると思う?」 いきなりの直球にいささか驚きつつも、顔には出さずに枝豆をまた口に放り込む。 「さぁ。でも、するっつってんだからするんじゃねーの?」 興味なさそうにそう答える俺に、平野は顔を顰めて「他人事だな」と言った。 「いや、そうだろ」 俺がすかさずそう言うと、平野は苦々しい顔でまたジョッキを持ち上げた。 うちの厄介なボスは、日本に帰ってくるまで相当遊んでいた。 本当に、全員清々しいまでに遊びなのは俺でなくても分かる。誰一人本気じゃないどころか、興味すらないだろう相手と平気で関係を持つような男。 ……だった。 それが、いつの間にか変わって行ったのは、日本に戻ってしばらくしてから。 遊び相手を全員切って、誰の誘いにも乗らなくなった。 ようやくこの人も心を入れ替えたか、なんて俺は呑気に眺めていたが、なんの事はない、唯一無二の相手を見つけただけの事だった。 その相手はボスのマネージャーとして俺達の前に現れたが、さすがに最初はその相手だとは気づかなかった。 たぶん、先に気づいたのは平野の方。 なんだかかんだで、ボスの姿を目で追いかけてたんだから、その変化にもすぐに気づいたんだと思う。
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