慟哭

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慟哭

 花畑の月。  空を仰ぐも、袋小路の網目模様。  水鏡(みずかがみ)の窓。  地を()くも、八方塞がりの粉袋。  花と雲、水と人とに遮られ、(ほの)かな綾織は()りガラスに似ている。  連れ立って舞え、色めきだって(わめ)けともてはやされて、砂粒ほどの自尊心は石臼の間隙(かんげき)にそばだちて朽ちる。  (こも)を編み、晴れ着を織りて、踏み(にじ)り、杜若(かきつばた)斟酌(しんしゃく)と、石臼の目合(まぐわ)いとを、代わる代わるに見遣り居て、意味もなく、交わりもなく、思い高ぶりもなくて木陰に潜む。  小間使いの晴れ姿、一家の(あるじ)の排泄物。  美醜になんの貴賤がある?  俺になんの意味がある?  あ、目が覚めた。  気持ちのいい朝だ。  死ぬも死なぬも閾値(いきち)の限りも、張り裂けんほどの(すが)し朝。  絡まる足はいらぬ。  進まぬ足はいらぬ。  されど千切れた足は愛おしい。  粉雪の舞わぬ冬はいらぬ。  桜の舞わぬ春はいらぬ。  されど二度と巡らぬ景色は愛おしい。  あ、靴下まだ乾いてないじゃん!  巡る気色(けしき)もまた愛おしい。  探せ!  この船旅の果ての果てが、蠢々(しゅんしゅん)乱歩の(ひだ)模様。  見よ!  この海原の果ての果てが、呵責(かしゃく)無律(むりつ)の奥座敷。  鳴かず飛ばずの駄作のくせに、蝶よ花よの子煩悩。  水無瀬(みなせ)に帆を張りて、幽世(かくりよ)(いかり)を下ろす。  羽を折られた鳥獣のごとく、地を()うことを常とする。  俺が生きていることに、一体なんの文句がある?
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