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変わりたい。その一心で今日まで生きてきた。
自分を好きになるためには、変わらなければならないと思っていた。
入社してから半年が経った、十一月中旬の金曜日。
「青木くん、今月も順調だね」
帰社後、ホワイトボードに貼られているグラフの方眼紙をペンで染めている時に話しかけられた。
振り向くと、同期の笹西あずさが腰に両手をあて、赤い四角が積み上がった俺の欄を眺めていた。
弊社では毎月、事務の人が方眼紙でグラフを作成してくれる。横軸に営業社員の名前、縦軸に数字が書かれており、契約が取れた分だけ自分の欄のマスを染めることになっていた。
「初契約も一番乗りだったし、同期の中では毎月トップだし、青木くんは営業するために生まれてきたんじゃないの?」
笹西が軽口を叩いた。
「そんなわけ……あるかも」
ニヤリと笑ってみせる。
「くうー、腹立つ!」
悔しそうに笹西が言う。
「いいな、天才は」
ぽつりと呟いた笹西の声に、胸の奥がくすぶる。
俺は気づかなかったフリをする。唾を飲み込む。
「大丈夫」
独り言のつもりだった。
「え、どういうこと?」
反応されてしまった。取り繕うために口角を上げ、目尻を下げた。
「笹西だって天才になれるよってこと」
「嫌味か!」
背中を強い力で叩かれる。
「天才にはわかんないよ。わたしの気持ちなんて」
茶化すように言って、笹西が立ち去った。グラフを眺める。「笹西」と書かれた欄は真っ白のままだ。
もう一度唾を飲み込み、自分のデスクへと向かう。報告書を書いて帰ろうと思った。
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