蜘蛛の糸

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蜘蛛の糸

時間が経てば経つほど、僕が僕だと認識している彰人像から遠ざかっていく。 その事実がどうしても恐ろしく、受け入れ難い。 地元の中学校に上がっても、同級生の顔触れはさほど変わらず、僕の扱いも変わらなかった。変わり者として倦厭されているならいるで、どうでも良かったのだ。 女子たちがカラーマスカラを塗ってこようと皆んなで盛り上がっていた時、睫毛だけが際立ったらおかしいと言っていた子が一人いた。空気が読めないと罵られていたから、僕は我慢できずに口を挟んだことがあった。 「その人なりの美的感覚があるんだから、一律一緒じゃなくてかまわないんじゃないのかな。したい人はすれば良いし、したくない人はしなければ良い。校則なんて気にしないでフルメイクしたって、自分がしたいことなんだから良いんじゃないかな」 言いたいことを言っただけだった。その子を助けてあげたいわけでもなかったけれど、その彼女にすら、私たちの話を聞いているなんて気持ち悪い、と軽蔑されてしまった。 僕はずっと、そんな社会で生きてきた。安全な我が家を一歩出ると、外は地獄だった。家に帰ったとしても、全知全能の神さまに思えていた父母も、ただの人間に違いなかった。社会に不適合な僕にかける言葉も持たず、我が子が苦しんでいることにすら気づかなかった。
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