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「彰人も分かっていると思うけれど、父さんたちが通わせてやれる高校は、県立の高校くらいだ」
毎夜毎夜、幼かった頃の自分を思い出しながら現実逃避をしていたのに、ある日急に叩きつけられるみたいに現実が迫ってきた。
「彰人はどう考えているんだ。本当は行きたい高校があるんじゃないか」
夢どころじゃなかった、あと一年も我慢すれば、あの忌々しい同級生たちの気配を感じずに済むと思って割り切ってきていた。県立高校になんて進めば、また見知った顔が大勢いるだろう。
「誰も知らないところで生きていきたいんだ」
嘘ではなかった。
「自分で、自分のために、自分が幸せだと感じて生きていくために、できる限りのことがしたいんだ」
立派に育ってくれたものだと父母は二人して涙ぐんでいた。それを見た僕はというと、お気楽なものだ、と冷めていた。
思い返せば、老体に鞭を打って働き続けるかどうかの分岐点がそこにあったのだ。父は内心ひやひやしていただろう。勿論、僕の幸せを願う気持ちも真実だろうが、少数派かつ複雑化した一人息子を理解しようというのは諦めているようだった。
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