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「どちらかなんて思いません。僕は僕です」
「そう。じゃあ、質問を変えるわ。体は男の子なのかしら」
「そうです。戸籍も男です」
「それは気に入ってるのかしら」
「捨ててしまいたいくらい嫌いです」
まるで尋問かカウンセリングのようにやりとりが続いた。その中で少しずつ自我に目覚めるようなときめきがあった。
「どんなに醜く感じたって、あなたはあなたよ。美しいに決まってるじゃない」
「あなたはそんなに美しいから言えるんですよ」
「これはお直ししてるからよ」
手で隠しながらも見え隠れする大きな口から白い歯が見えた。
「お直し」
「分からないわよね。自分を好きになるために変わっていくのは反対しないわ」
でもね、と向かい側のソファから顔だけを僕の鼻先に近づける。
「自暴自棄になる奴はこの店から出ていってもらうから」
そうならないようにね、と僕の知らないお酒を口に運んだ。
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