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私だって嫌だっちゅうの
嘉彦の車はレクサス。天井の開くオープンカーであった。今時の女が高級車で気が引けると思っているのかと思うと少しだけウンザリする。まあ、これだけの車を維持しているのだから、収入もかなりのものである事は予想できる。同じ会社でチマチマ事務をやり、薄給で遣り繰りしている愛美はやりきれない気持ちになる。
車の中で流れるミージックの選択もムードを重視した静かな音楽。ジャニーズでも流してくれれば口ずさむことも出来るのだが……。
「愛美は、俺の前に何人と付き合ったの?」嘉彦の質問、それを聞いてどうするのかと愛美は思う。きっとそれを確認しても不快になるだけだろう。
「えーと、ふ、二人かな……」本当は四人であった。
「そうか……、で、その相手とは深い中になったのは?」コイツの頭の中にはそれしか無いのかと、更に減なりとする。
「あははは……、まあ、想像に任せるわ……」そうこうしているうちに、愛美の家の前に到着する。車を止めると、嘉彦はゆっくりと唇を重ねようとしてくる。しかし、愛美は軽く横を向いてその攻撃をかわした。
「俺たち……、付き合っているんだよね……。だから、次は……。」嘉彦は機嫌を損ねたようである。
「ま、まあ……、今日はそういう気持ちじゃないっていうか……、ごめんね」愛美は拝むように両手を合わせると慌てて車を飛び出して家に飛び込んだ。外では、嘉彦の気持ちを表すように激しい爆音を上げて車が走り去っていった。
「はぁ……」愛美は深い溜め息を突きつつ、ヒールを脱ぎ捨てた。
「おばちゃん!お帰り!」バタバタと階段から、姪っ子の瞳がかけ降りてくる。
「こら!おばちゃんっていうな!……でも、可愛いから許す~!」愛美は瞳を抱き上げると頬ずりをした。
「お帰り。早いじゃないの。お泊まりでもしてきたら良かったのに」彼女の姉、昌子が瞳を追いかけるように階段から降りてくる。
「な、何言ってるのよ!外泊なんてしないわよ!」愛美は焦ったような表情になる。
「ふーん、結構いい車だったし、金持ってるんでしょ?あんたも結構いい歳なんだから、好きとか嫌いとか言ってないで経済力のある男を選びなよ。じゃないと、私みたいになるよ」昌子はため息をつきながら呟く。昌子は、二十歳を過ぎると早々に付き合っていた彼と結婚をしたが、数年で別居し、今年の始めに離婚して娘の瞳を連れて出戻ってきた。結婚に反対していた父は、帰ってくる事に激怒したが。結局、孫娘を見て渋々納得したというところであった。
「どこから見てたのよ!私は大丈夫よ。男を見る目はある方だし」あくまで自己評価ですけど……。
「若さを武器に出来るのも、そろそろ終わりよ。さっさっとヤっちゃって逃げられないよつにしなきゃ!」
「おい!なんの話をしてるんだ」父親がリビングから顔を出す。その顔は不機嫌な様子であった。
「いやいや、何でもない。何でもない。瞳、行こう!」昌子はそういうと瞳を連れて階段をかけ上っていった。
「いいか!ワシの目の黒いうちは、変な男とは結婚させないからな!」そう言い残すと父は奥に戻っていった。
「そりゃ、私だって変な男は嫌だっちゅうの!」愛美はため息をつくと、二階の自分の部屋に向かった。
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