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甘い香り
「おはよう」愛美は朝、目を覚ますとリビングに顔を出した。
「おばちゃん!おはよう」瞳が可愛らしい茶碗を手にして朝ごはんを食べてる。その頬っぺに付いた米粒を摘まむと、愛美は口に入れる。
「あーん、瞳は今日も可愛いね。でも私はおばちゃんじゃないのよ」一応、叔母であることは間違いない。
「最近、少しカッコいい男の子を見かけるんだけど、あんた知らない」昌子は瞳の面倒を愛美に任せると頭をボサボサにしたまま、朝食を口にしている。
「なにそれ、私は小さな男の子に興味はないわ。それよりも、最近誰かにいつも後を着けられて監視されてるような気がするんだけど・・・・・・」流石に家の中ではその視線は感じないが、通勤途中や会社の昼休み、そして休みの日の外出時にも感じるような気がする。最近、色々なことで疲れが溜まっているのかなとも思った。
「フーン、愛美をストーカーする男が居るのかね・・・・・・」昌子はあまり興味の無い様子であった。
「じゃあ、私は会社に行くわね」愛美は朝の食事はトーストとコーヒーと決めている。朝からがっちり食べると、昼までに眠くなってしまうからであった。
「あんた、化粧は?」昌子は起きてからこの短時間で出勤していく愛美を見て注意する。彼女は家の中と外では別人のように変わる。いつも念入りに整えてから出かける昌子にとっては、ろくに化粧もせずに飛び出していく愛美の行動が信じられない様子であった。
「会社に着くまでに、電車の中でちょちょちょいって感じでね」流石にすっぴんで家を出るのは抵抗があるので、ベースだけは整えてから出勤する。そろそろ化粧なしでは人前に出る事は出来ないなとため息をついた。
「行ってきまーす」愛美は笑顔でその言葉を口にする。
「おばちゃん!頑張ってね!!」瞳の声に癒されながら玄関を飛び出して最寄りの駅に向かった。
少し高いヒールを履き、膝上のタイトのスカート、白色のブラウスにジャケット。そして通勤用の鞄を肩にかけている。電車の中で化粧を整えるまでは、噛みを後ろで結んでポニーテールのようにして纏めている。
駅の自動改札機に定期をかざしてホームで電車を待つ。この電車はビジネス街へ向かう基幹の路線で沢山の乗客が乗車してくるため、座るのが困難である。愛美の乗車する駅は始発であるので、座ることが出来るので化粧の続きをする事が出来るのである。彼女は座席に座り鞄からコンパクトを取り出して、ファンデーション、アイシャドウ、チーク、リップの順に仕上げていく。電車の中での化粧を批判する人も多いが、時間を有意義に活用する為にその声はあえて無視する。
「うーん・・・・・・・、やっぱり誰かに見られているような気がするわ・・・・・・・」少し周りの乗客を見回すが、そのような者はやはり見当たらなかった。「気のせいなのかな・・・・・・・」電車の中が混雑してきたので、コンパクトを鞄に直してから、髪を纏めていたゴムを外す、綺麗な肩まで伸びた髪が甘い香りを漂わせる。彼女は自分のチャームポイントは、この髪だと思っている。いつも風呂上りのブラッシングは念入りに一時間程度行う位であった。
目的の駅に到着したので、愛美は立ち上がると電車から乗客達に流されるようにホームへ移動して行った。
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