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恥ずかしい
駅の改札を抜けて交差点の前、愛美の目の前でちょうど赤に変わる。歩みを止めると目の前を車が通過する。人混みの最前列に愛美は立っている。やはりヒールは苦手で、バランスが少し不安定である。
「えっ!?」
愛美は唐突に背中を押されたような感覚に襲われて、交差点の真ん中に飛び出してしまう。そこに乗用車が急ブレーキをかけながら近づいてくる。
「キャーーー!!」あまりの事に愛美は体を硬直させて強く目を瞑ってしまう。
「危ない!!」急に抱きしめられるような感じ・・・・・・、車が何かにぶつかったような・・・・・・、気が付くと彼女の体は何かに守られているようにして横たわっている。
「・・・・・・・なに、なんなの・・・・・・・」愛美はゆっくりと目を開く。そこには整った顔の男性。その顔は苦痛で歪んでいる。
「だ、大丈夫ですか!?」近くにいた人たちが集まってくる。「救急車だ!救急車をよんで!!」「け、警察も!!」辺りが騒がしい。
「えーと・・・・・、あの・・・・・、だい、大丈夫・・・・・・・ですか?」愛美は自分を強く抱いたままの男性に声を掛ける。
「く・・・・・・、くう・・・・・・」相当痛い様子である。返答は無い。
「は、早く・・・・・・・、この人を助けてあげて・・・・・・・!」愛美は目に涙を溜めて懇願する。相変わらず強く抱きしめられたままであった。愛美は体を起こそうとするが、起き上がれない。
しばらくすると遠くからサイレンの音が聞こえてきた。だんだんとその音は大きくなって二人の目の前に、救急車が到着した。
「しっかり!だいじょうぶですか!?」救急隊員が声を掛ける。
「は、はい、私は大丈夫ですけど・・・・・・、彼が・・・・・・」抱きしめられたまま、男性の顔を見る。顔は相変わらず苦しそうであったが、意識があるのかどうかは解らなかった。
「えっ!?ちょ、ちょっと・・・・・・」救急隊員が男性を引き離して救急車へ運ぼうとするが彼は愛美から離れようとしない。仕方がないので、彼らはそのまま二人をストレッチャーの乗せて救急車の中に搬送していった。
「ええーーーー!!!」男性に往来の真ん中で抱きしめられながらベッドに乗せられて救急車の中。嫌でも視線は自分達に集中する。面白がってスマホで写真を撮影するものまでいる。(は、恥ずかしい・・・・・・・)愛美の顔は真っ赤に染まる。
二人を乗せた救急車は、けたたましいサイレンの音を鳴らしながら病院へと走り出した。
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