刈谷 純一

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刈谷 純一

「はあ・・・・・・・」愛美はため息をついた。病院に着くころには、あの男性の抱擁から解放されていた。往来で男の人に抱きしめられる事などそうそう無い事なので恥ずかしくて、なんだか体が熱いままであった。助けてくれた男性は、骨折は免れたものの、足に結構な打撲を負ったようである。頭を少し打ちつけたようで気を失ったままであった。男性の眠るベッドの横に彼女は腰かけていた。 「奥さん、そんなに心配しなくても大丈夫よ、すぐに目を覚ますわ」女性の看護師が笑顔で言葉を掛ける。 「あっ・・・・・・、はい・・・・・・」この男性と抱きしめあったまま、搬送されて来た為か、誤解されているようである。初めのうちはその都度訂正をしていたが、途中から面倒くさくなってしまった。男性の名前は、刈谷(かりや)純一(じゅんいち)、身元が解らないので病院の職員が彼の上着の内ポケットに入っていた財布の中に入っていた運転免許証を一緒に確認した。 「ちょっと失礼します。」男が二人病室に入ってきた。一人はスーツを着た中年の男性。もう一人は警察の制服を着た巡査であった。 「あ、はい・・・・・・」交通事故の件を調査にきたのだなと愛美は思った。 「あれ?刈谷さん、この人、刈谷さんじゃないですか?」巡査が眠っている刈谷の顔を見て驚く。どうやら顔見知りのようであった。 「刈谷・・・・・・・。たしかに刈谷だ。という事は・・・・・・・あなたは刈谷の・・・・・・・?」まるで恋人か、奥さんとでも言いたげな感じであった。 「あっ、いいえ・・・・・・、私が車にはねられそうになった時に助けていただいたんです」 「そうですか・・・・・・・、その?時の状況を教えていただけますか?」巡査は手に持っていたノートのような物に愛美の話の内容を記載し始めた。
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