第2話

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「和歌には五七五七七で結ぶ短歌と、五七五七……と続き七七で結ぶ長歌とがあるのだよ」 「へー、やっぱアカヒトさんも短歌だと短すぎって思ったんすかね」 「アトソン君……」 「あれっもしかして俺また変なこと言っちゃいました?」  焦った声を上げるアトソンくんに、までこさんは「いや」と答えて首を振ります。 「真理かもしれないね。かの霊峰の尊さは言尽くしてなお語り尽くせぬ。そしてまた万感の思いを抱きその姿はみそひともじに集約される――…… 〈田子の浦ゆ うち出でてみれば 真白にそ 富士の高嶺に 雪は降りける〉」 「ん? 違いますよヨーコさん、そこは『タゴの裏に内井出てみれば』……ですよ! やだなぁ~間違えちゃって。覚え方はタゴ商店の裏に住む内井さんがぁ――…」  ハァ、と露に濡れた口許から悩まし気な溜息を零すまでこさんです。まるで「少し見直すとこれだ」とでも言わんばかりです。 「アトソン君、この歌は百人一首と万葉集では異なる歌になると教えたね? 一条君の暗号で使われているのは百人一首、私が今読んだのは万葉集なのだよ。然るに〈白妙の〉は〈真白にそ〉に……そこ以外にも異なる部分はこれだけある」  〈田子の浦ゆ〉は〈田子の浦に〉に  〈白妙の〉は〈真白にそ〉に  〈雪は降りつつ〉は〈雪は降りける〉に……。  そこまでを口にして、ハッと気がつくまでこさんです。 「〈白妙〉は〈真白〉に、百人一首は万葉集に……そうか、そういうことか! ふふ、一条君ときたら、田子の浦の富士の歌だけでは解けない難問を出してくるとはつくづく一筋縄ではいかない男だ。真白さん、この暗号を解くためには百人一首の、ある別の歌が鍵となるのだよ」  ましろさんはキョトンと丸い目を瞬かせます。 「別の歌、ですか?」 「そうとも。全ての秘密は〈白妙〉の中にあり、だ!」  ついにたどりついた真相にざばっとお湯をかき分け立ち上がるまでこさん。  ヒメウツギのように可憐な肢体が露となりますが――乙女の秘密は湯気の中、ですよ? ◇つづく◇
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