第1話

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「和歌を題材に描いてみたのだよ。君もこの歌くらいは聞き及ぶのではないかね? 〈春過ぎて 夏来たるらし 白栲(しろたえ)の 衣干したり (あめ)の香久山〉 」 「わははは、さっぱりです! 俺古文はいつも赤点ですから!」 「語り甲斐がないね、君は」  自信満々に答えるアトソンくんに呆れ顔のまでこさんです。アトソンくんの赤点ばかりの通知表もまた、までこさんとは対照的なものの一つに数えられるのでした。 「ならばこの解説書あたりを読んでみるといいよ」 「あざまっす!」  そんな平和なひとときを過ごすまでこさんたちでしたが、今日もまたとある騒動が万研部の部室の扉をノックします。  正しくは図書準備室の扉なのですが、ドアノブに『万葉研究部』の札が下がっているからにはここが万研部の部室なのです。  控えめに扉が叩かれる音を耳聡く聞きつけたまでこさんが扉の向こうに声を投げ掛けます。 「入りたまえ」  控えめに扉が開き、そっと顔を出したのは、小柄な女子生徒でした。頭の両側でツーサイドアップにした髪がピョコンと跳ねた可愛らしい少女です。 「あの……ここにまでこ先輩という方はいらっしゃいますか……?」 「それなら私だけれど?」  おどおどとした問いかけにまでこさんが答えると、少女は少しの躊躇いの後、決意を固めた顔で大きく息を吸い込みます。 「あのっ、先輩は謎解きが得意と聞きました……お願いします! 力を貸してください!!」  小さな体でどこから出るのかというくらいの声でそう言うと、少女は思い切りよく頭を下げます。  少女の切羽詰まった様子にまでこさんは小さく首を傾げました。艶やかな髪がさらりと右から左に流れます。 「その悩み事というのはもしや、ミステリー同好会の一条和也に関することかな」 「ええっ、ど、どうして判ったんですか!? わたしまだ名乗ってないのに!」
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