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「ふふ、私の事を“までこ”と呼ぶのは彼くらいのものだからね。その彼の後輩で謎解きとくればミステリー同好会繋がりと思うが道理というものだよ」
「あ……」
見知らぬ少女は目を丸くしたあと、心なしか肩を落としたようでした。
「そう……ですよね……。そう呼ぶのは一条先輩だけ、なんですね……」
までこさんはまたまた不思議そうに小さく首を傾げます。艶やかな髪がさらりと左から右に流れます。
「別に呼びたければ、君もそう呼んでくれて構わないのだがね?」
「いっいえそんな! わたしみたいな後輩が先輩たちの間に割って入るようなことはできません!」
頬を赤くさせて必死に首を振る少女に、までこさんはにっこりと笑いかけます。
「私と彼は君が思うような仲ではないよ。彼は善き友人なれど、それだけだ。君の恋敵ではないから安心したまえ」
「ええっわたしっあのっそのっ、はうぅっ!」
子リスのようにせわしなく慌てふためく少女を微笑ましく見守るまでこさん。ちなみにアトソンくんのことはさっきからまるで気にかけられていません。全くもってあうとおぶ眼中です。
「まぁ、とにかく中に入るといい。詳しく話を聞こう」
部室こと図書準備室の一角にある机に少女を案内し、までこさんとアトソン君はその向かいに着席しました。
「どうやら改めて自己紹介をすべきようだね。私は2年の万里野葉子。この万葉研究部の部長だ」
までこさんが名乗ると少女はキョトンとした顔で大きな目を瞬かせました。
「……までの……ようこ……?」
「そう」
「……葉子さん……?」
「いかにも」
「までこ先輩じゃなくて、葉子先輩……?」
「あのー、さっきから気になってたんすが、そのまでこ先輩ってのはなんなんすか? ヨーコさん」
「までこは彼が私を呼ぶときに使う愛称なのだよ。『君は僕の善き友克つ善き好敵手であるからして、親しみと敬意を込めてまでこ君と呼ばせてもらうよ』とね。然るに私が彼と互いの名前を呼び合うような特別な間柄という訳ではないので、案ずることはないよ」
「ん?」
「はい……その、やっぱり気づいてらっしゃったんですね……は、恥ずかしいです……」
「んん?」
「ふふ、こんなに可愛らしい子にとは、彼も隅に置けないね」
「ううう、勘違いしたわたしが悪いですから、お願いですからからかわないでくださいぃ……」
二人のやり取りにただ首を巡らせるばかりのアトソンくんです。乙女心がわかっていない奴です。
「他でもない彼の後輩だからね。改めて言うけれど、良ければ君も私のことは気軽にまでこと呼んでくれると嬉しいよ」
「はいっ、そういう事なら喜んで! わたし、1年A組の烏丸真白といいます。までこ先輩のおっしゃる通りミステリー同好会に入ってます」
「1年? じゃあ俺とおんなじだ! 俺はヨーコ先輩のヒラメキの助手こと1年C組の……」
「彼はただのにぎやかしのアトソン君だ」
「阿藤尊です!」
「アトソン君。少し静かに」
「えっと、よろしくお願いします! アトソン君!」
「阿藤尊ですってば!」
ペコリと頭を下げるましろさん。アトソンくんの主張は川面に落ちた木の葉のように軽やかに流されていきました。
◇
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