紛れ込んだジョーカー

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紛れ込んだジョーカー

 2年生の先輩、顔も名前も知らない人だ。妙に大人びた雰囲気があるのは、ひとつ上の先輩だから、という僕の中でのバイアスがかかっているからなのだろうか。  ここ、映画部の部室と世をたばかって場所を確保した占いの部屋。この部屋に、僕の占いのマネジメントのようなことをしている芹沢が、新しい「占いを受けたい新規の先輩の女性」をここに案内してきた。姿を見たとき、大人っぽい、素敵な人だなぁ、と僕は思った。  占いの内容も、大人びていた。交際している彼氏との、今後について。  そして、僕の占いは大不調だった。スペードだけを選り分けていたはずが、いざ出したカードにクラブが混じっていたり、シャッフルの時に派手にカードをこぼしたり、散々だった。こんな体たらくで大丈夫かな、と、ちらとその女性の先輩を見たけれども、無表情を変えず、次の僕の言葉を待ってくれている。 「あの、彼氏と、これからどういうような感じになっていくと思う?」 「彼氏がどうも、私一筋じゃないみたいなんだけど、私はどうすればいい?」 「もし、彼氏と別れることがあったら、だいたいどのくらいの時期になると占いでは出ている?」  正直、お手上げだった。今まで僕は彼女がいたことがないので、アドバイスじみた言葉を話すこともできなかったし、頼みの綱のトランプ占いも、ミスを連発している。言葉に詰まりながら僕は正直に話した。このカードは本来、出ないはずのカードで、ミスでうっかり混じってしまったらしい。どうも僕の調子が悪いみたいですし、もし時間があったら、もう一度来て欲しい、ということを、僕はその先輩に伝えた。事実上の白旗宣言だ。  その先輩は、相変わらず表情をほとんど変えず、そしてこう言った。 「当たる占いとは聞いていたけど、私のその彼氏が、年上なのか年下なのか、それくらいは占いで当てることって出来る?」  口調は淡々とだが、試されているな、と思った。僕はトランプの中から、ハートだけを抜いて真ん中に置いた。ハートはエース1から、キング13までの13枚。奇数なので、真ん中の7が出れば同い年、それより下なら年下、8より上が出れば年上、ということを説明した。  丁寧にシャッフルしたのち、先輩の前に置き、いちばん上を自分で引いてもらった。  先輩は一瞬、戸惑ったような表情を見せた。僕はその一瞬の表情の変化を見て、たまたま、当たったのかな? と思いきや、「このカードの意味するところは?」と聞かれてしまい、先輩が机に表を開いておいたカードを見て、僕の方が驚いてしまった。  机に置かれたのは、ジョーカーだった。僕はハートだけを選んでシャッフルしたはずだった。ジョーカーが紛れ込むなんて、やっぱり今日の僕はどうかしている。 「すみません……言い訳がましく聞こえるかも知れないんですけど、こんなに調子が悪いのって、僕も初めてです。せっかく来たいただいたのですが、全然ミスばっかりで、本当に申し訳ないです」  その言葉を聞いて、その先輩が初めて笑顔を見せた。 「いや、藤村くんって言ったっけ? すごいと思う!」  と。机にあったジョーカーを手に取って、これが最高の当たりなんだよ! と。僕は何が何だか分からなかった。 「実はね、私、彼氏なんていないんだ! 今まで、その前提条件から見抜いた占いって、一人もいなかったよ! 今まで同じ内容で占いを受けて、彼氏との今後だとか、「いい未来が待っている」とか、「あなたが気をつけないと、彼氏は離れて行ってしまう」とかって言われたことはたくさんあるけど、藤村くんはカードを見て、うーん、おかしい、カードそのものが変だ、って呟いたのを聞いて、本当は私、ドキドキしていたんだ! この人は、ひょっとしたら本当に当てる人じゃないかって!」  急に饒舌になった彼女に圧倒される。先輩はまだ話を続ける。 「そうして、挙げ句の果て、「彼氏は年下か年上か」で、年上でも年下でもない、そのルールから外れたカードを見たとき、私は初めて、嘘をついていて、申し訳なかった! って思ったんだよ! 藤村くん! 噂は本当だったんだね! こんなに当たる占い、私は今後とも、どうか観てもらいたい!」  机から乗り出さん勢いで、先輩は僕に話しかけてきた。僕が返す言葉は、ひとことだけだった。 「……あの、今使っているこの部屋って映画部のもので、あとひとり部員が集まれば、正式に部活として成立するんです。もし良かったら、先輩もこの部活に入りませんか?」  先輩は、そんなのお安い御用! もちろん入るよ! と答えた。芹沢から言われていた僕のミッション「占いに来る人から、ひとりでいいから映画部に勧誘して前向きな答えの人を探す」は、いとも簡単にクリアしてしまったのだった。 (続く・スター特典あります)
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