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……────。
「お先でしたー」
一階にいる茅野の両親に会釈をしてから、子ども部屋へ向かう。
初夏はさっとシャワーだけを浴びることが多く、長風呂はあまりしない。
檜の舟形に、ネットに入れられた柚子の皮が浮いていて新鮮だったし、香りも楽しめた。
旅館のようなおもてなしを受けて、夕里は茅野がいる前で「茅野家の子どもになりたいなぁ」なんて冗談っぽく言った。
「お嫁にきてくれるの?」
「ば……ばかっ。そういうつもりで言ったんじゃないしっ。というか! 嫁じゃなくて婿入りだろ」
今の関係を打ち明けるのか。
折り合わなくて、さらにネガティブな方向へ下降していたから、茅野はわざとふざけた返事をする。
分かりやすくご機嫌を取られるよりも、気が楽だった。
超然としていて嫌みっぽくないところが、茅野の好きなところの一つだったりする。
「へぇ。お婿さんになってくれるんだ。楽しみ」
「言葉の綾だってば。もー、揚げ足ばっか取るなって」
「なーんか本気にしちゃった」
──まあ……そうなればいいんだけどさぁ。
夕里一人が願ったって、双方の親はどんな顔をするのか検討もつかない。
まだ濡れた毛先を拭きながら、茅野の隣へ座った。
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