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くし型にカットされた桃を一口だけ味わい、夕里は「ごちそうさまです」と手を合わせた。
「あら。夕里君もう終わり?」
「はい。お腹いっぱいです……」
「ふふ。夕里君少食なのねぇ。あ、そろそろお風呂に入る?」
直美の提案に頷き、二階から着替えを取ってこようと立ち上がったときだった。
「舜も一緒に入ってきたら?」
「はっ?」
「えっ?」
何気ない一言、でも夕里にとってはとんでもない台詞に聞こえて、声を上げてしまった。
向かいにいる茅野も一緒だ。
自分達は恋人同士……それを伏せれば、ただのクラスメートで男同士で友人で。
「そんなに驚くこと? うちのお風呂広めだから男子二人でも大丈夫よ」
「夕里、ゆっくり浸かりたいだろ。俺は後からでもいいから先に入ってきな」
自然な感じで茅野が気遣ってくれ、夕里は「ありがと」とだけ返す。
足早に二階から一階の風呂場へ駆けて、引き戸を閉めた途端に情けなくもその場へへたり込んでしまった。
──やばい。いろいろと……想像してしまった。
もしかしたら、なんてある訳ない。今日は健全なお泊まり会なんだし。
不健全な方向へ気持ちがぶれそうになるのを何とか抑えながら、夕里は隠しきれない想いに溜め息をついた。
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