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* Sweet.1 *
桜の季節は1週間ほどで過ぎ、ピンク色の花を落とした枝には若芽が萌えている。
開け放った窓から香る新緑の爽やかな匂いを嗅ぎながら、九重 夕里は腕を組んで伸びをする。
ホームルームが終わり、別クラスの生徒が途端に入ってきて、がやがやと騒がしくなった。
目の前の席がすぐに女子の制服で埋もれるのは、見慣れたいつもの光景だ。
「なー、寺沢。もう帰ろう。疲れたから甘いもの食べたい」
わざと大きくした声で、夕里は左斜め前に座っている寺沢 朝日を呼んだ。
寺沢がバッグを持って席を立つと、後ろの女子がそれを目で追いかける。
ちらちらと寄せる視線の意味が分かり、夕里は不満そうな表情で寺沢を見た。
「えぇ、今日も? というか、舜も誘うよね?」
「はあぁ? 何でわざわざ誘わないといけないんだ。いい思いしてるんだからいいじゃん」
唇を尖らせて、夕里はスマートフォンをぽちぽちと操作する。
お気に入りしたスイーツ店をいくつかピックアップした。
──見せつけてんの、ありえなくないか? 俺達付き合ってるんだぞ。
もちろんそんなこと言えない。
ぷくーっと頬を膨らませながら、夕里は机の袖に入っている教科書とノートをがさっと鞄に突っ込んだ。
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