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あちらこちらから学生たちの呼び込みの声が聞こえてきて、その活気を感じながら、自分の学生時代を思い出す。
成人式を迎えた後は、一気に大人になった気でいたが、こうやって見るとやっぱり若いなぁ、と微笑ましくなる。
一際賑わっている一角があって、近づいていくと『台湾屋台』の看板が出ていた。
人混みの向こう側に王の姿が見えて、綾香と目を見合わせて女性ばかりの列に並んでみると、女の子たちのお目当てが王らしいと気がついた。
やっぱり人気なんだね、と綾香が耳打ちしてきて、未来もうんうんと頷いて、妙に納得した。
15分ほど並んで、レジでタピオカミルクティーを2つ注文した。
王は出来上がったドリンクにストローを指して、お客さんに渡す役目だったが、女の子たちがキラキラした目でそれを受け取り、名残惜しそうに後退りで離れていくというのに、淡々と一連の動作を続けるだけで、お客さんの顔を見ようとしない。
未来たちに気がつく様子もなさそうなので、そんな王に声を掛けた。
「王くん。」
パッと顔を上げた王は、未来の顔を見た途端、満面の笑みになった。
「ミキサン、キテクレタ。」
その瞬間、あちらこちらから小さな歓声や、ため息が漏れた。
端麗な笑顔は、一瞬で女の子たちを夢見心地にさせてしまったようだ。
「アヤカサンモ、アリガトウ。」
「名前、覚えててくれたの?」
綾香は感激のあまり、周りの女の子たちのように目をキラキラさせて、胸の前で祈る様に手を組んだ。
「王。こんな綺麗なお姉さんのファンまでいるのか?」
一緒に働いていた学生が、羨ましそうに王に声を掛けた。
すると王は、少しムッとしたように言った。
「ミキサンハ、ミンナトチガウ。」
大きな声ではなかったが、近くにいた数人の女の子には聞こえたようで、その目は一斉に未来に注がれた。
思いもよらない展開に、未来はいたたまれなくなってしまい咄嗟に顔を伏せる。
一方で綾香は周りの視線など全く気にならない様子で、王からタピオカを嬉しそうに受け取り、そのうちのひとつを未来へと差し出した。
そして未来が遠慮がちに、頑張ってね、と小さく手を振ると、王は嬉しそうな笑顔を浮かべて、また黄色い歓声を浴びていた。
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