子犬

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「懐かしい!この雰囲気。」 大学の門を前にして、綾香(あやか)は既にテンションが上がっている。 王から学園祭に誘われたと話すと、行く行く!と二つ返事で出掛けることが決まった。 「よく休み取れたね。セールも始まってるし忙しいんじゃないの?」 「クリスマスに働くって言ったらOKしてくれた。土日だって誰かは休むんだから、1日くらいは良いってもんよ。」 綾香と会うのは久しぶりだった。 創太(そうた)と終わったことは、最後に会った、あの日の後に報告した。 『やっぱりめっちゃいい男じゃん。道田くんも幸せになってほしいね。』 親友の言葉にその通りだと思いながら、自分にはそんなことを言える権利は無いように思えた。 「綾香、今日はちょっとかわいいね。」 綾香の後ろ姿を見ながら、未来は言った。 どちらかと言うと、シンプルで大人っぽいデザインの服を着ることが多い綾香だが、今日は全体的にふんわりとした女の子らしい格好だった。 「だって、年下との出会いがあるかもしれない。」 綾香は目を輝かせて、そう言った。 「未来(みき)だって、張り切ってヒールの高い靴、履いてるじゃない。」 「これは練習のため。」 未来は答えながら、自分の足下に目をやった。 買ったハイヒールを履くわけにはいかず、元々持っていた靴の中から、1番ヒールの高い物を選んで履いてきたのだ。 「練習?」 綾香に、青島とのことはまだ話していなかった。 「あとで話す。」 そう答えて未来は笑った。 構内を歩いていると、総合案内所に清瀬の姿があった。 王は訪ねて来てくれるので良く会うが、清瀬と会うのは久しぶりだった。 「久しぶり。同じ建物に住んでても、なかなか顔合わさないね。」 「先輩、来てくれたんですね。王くんの話し相手になってくれているようで、ありがとうございます。」 にこにこと笑う清瀬を見ていたら、周りと紛れて、大学生に間違えられそうだと思った。 「清瀬くん、今日は友人と来てるの。」 そう言うと、未来は二人をそれぞれに紹介した。 「綾香、今の部屋の大家さん。地元の後輩って話したの覚えてる?王くんのことも下宿させてあげてるの。」 綾香は、あ〜と納得したようだった。 「大家さんだなんて。ただのすねかじりですよ。」 清瀬は相変わらずにこにこしながら、謙遜している。 しかしその間にも、清さん、清さんと入れ替わり立ち替わり学生たちが声を掛けて行く姿に、清瀬が慕われているのが伝わってきて、なぜか未来は安心した。 そんな清瀬から手作りのマップをもらい、早速、構内を見て回ることにした。 「いい子だね。」 綾香が言った。 「うん。いい子だよ。子供の時から全然変わってない。2コしか変わらないって嘘みたいだよね。」 「えっ⁉︎もっと下かと思った。全然いける。」 また言ってる、と笑いながら、でも案外お似合いかもしれない、と未来は思った。
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