白川 直央

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 心が――空っぽなのだ。スカスカなのだ。何も入っていない。外側には自分を満たしてくれるものが溢れかえっているはずなのに、それらは自分の内側に、満足感や安らぎ与えてはくれない。これは、何故だろう。この違和感は、何なのだろう。分からない。普段、こんな、センチメンタルな思春期らしいことは考えないのに。この違和感だけは、自分の中で通り過ぎることができなかった。  そんな違和感に伴って――なのか、たまに、息苦しいな、と感じることが増えた。なんとなく、漠然と――ここにいたくない、と。どこか遠くに行きたい、と。現実が揺らめいて、気付いたらぼうっと空想している。何か現実で悲劇や面倒事が起こっているわけでもないのに、はっきりとしない何かが、自分にまとわりついている。不快だった。  そんなときは、ひとりで、ぶらぶらと出歩いて気晴らしをする。だから夏休みが始まって間もないその日、近所の映画館に立ち寄ったのも、ほんの、気まぐれだった。  そういえば今の時期は何をやっているんだっけ、と、上映中の映画館のラインナップを順に眺めていく。映画は、誰かに誘われたりすれば行く程度で、いわゆる“通”ではない。  上映スケジュールのパネルの中に『思い出のマーニー』というタイトルを見つけた。あれ――確かジブリの映画だったっけ。ジブリなら、自分にも分かるんじゃないか。夕方からの回があったので、観てみることにした。
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