千願あれど

12/14
前へ
/14ページ
次へ
長い祈りを三人は捧げたあと、 ゆっくりとまた、休憩所まで やってきて、静かな夜の宮を 眺めていた。 「ほんとに・・・ほんとに  懐かしい・・・懐かしいわぁ」 夜露を心配した青年が 自分のカーディガンを 老婆に羽織らせた。 「ありがとう」 老婆は夫に生き写しの 曾孫の手をとって 「ここにまた来れて・・・・  よかったわ・・・・  お墓より、あの人がここに  いるような気がする」 宮の木立の夕風に抱かれた。 曾祖母の安堵の顔に 嬉しそうな娘は 「こんなに素敵な思い出の  デート場所なんですもの、  そりゃ来たかったはずよ」   そう言いながら やわらかな香りに誘われ 秋薔薇の方へ・・・。 美しい娘と一輪の秋薔薇・・・、 アツシマミムロの胸に 去来する若い日の二人の姿は 肩寄せ合いながら 夕暮れの村を見ていた 若い夫婦の幸福な姿・・・。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加