千願あれど

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 「明日こそ、お母さんが   帰ってきますように」 呟きを残して 小さな足が家路へ向かう。 「階段、転ぶなよぉ」 「知らない人について  いくんじゃないぞぉ」 その子に聴こえるわけなどないが、 言わずにおれぬ狛犬兄弟は 声かけ見送らずには 毎度おれない。 山のカラスに招かれて 「ああ・・・・もう日暮れか」 アツシマミムロが扉を開けると 澄んだ空には・・・ うっすら浮かんだ晩夏の月。 社を背にして 狛犬兄弟の間に 腰を下ろすと 百八つの段の梺に 黄金になりつつある稲と ぽつりぽつりと氏子の屋敷が見えた。 「まずは事もなしか・・・」 恙無い日に両手を合わせた。
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