千願あれど

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この茜の空を、どれくらい・・・・ アツシマミムロは見てきたことか、 どれほどの願いを 聴いてきたことか・・・。 しかして、その願いは常に アツシマミムロの懐で 左右されるわけではない。 “運命”とでもいうのであろうか、 願い人とともに、アツシマミムロも 念じるのであるけれど 事はみな、“なるように”しか ならぬのである、善しも悪しも。 それに神であるからといって 明日の天気も判らぬし、 最近よく来る先程の幼子の 母親の様子なども ここにやって来る氏子達の 噂話で知り得たネタばかり。 「母親が帰ってきたら  あの子は私に感謝を  してくれるのだろうが、  ・・・それは私の力でも  なんでもないのだよ・・・」 石段を転がるような溜め息には 狛犬兄弟も慰めが言い難い。 今宵も神の溜め息と 一夜を過ごすのかと やや困り顔の狛犬兄弟が ふいと、長々続く石段の 裾の方へと目をやると 一台の車が停車した。 「この夕暮れに・・・・  参拝様でございましょうか」 狛犬・ドウの呟く声に アツシマミムロも車へと 姿勢を向けた。
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