千願あれど

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車から先に降りたのは 二十歳を過ぎたあたりの美しい娘。 「おばあちゃん、ゆっくりね」 声をかけながら 車の反対扉を開けた。 上品な老婆が降り立って 石段を見上げた。 「そこで待ってろよ」 運転席から青年の声。 青年は車から降りると 老婆の前にしゃがんで 「ばーちゃん、しっかり  掴まってるんだぞ」 老婆をおぶった。 「兄さん、気をつけて」 たくましい青年は 揺るぎない足取りで 片手を手すりにしっかりつけて 石段を登り始めると その後方に美しい娘が 二人を見守るように続いた。 「大丈夫かなあ」 「百八段だからなあ」 狛犬兄弟は各々心配を ブツブツ言いつつ、三人を見守る。 一段一段やって来る三人の・・・ 娘と青年の顔に 「この方々は・・・!」 アツシマミムロの脳裏に 古い記憶が甦り始めた。 「・・・ああ、懐かしや・・・」 改めて老婆の顔をうかがうと その娘に似た面差しが残る。 「彼女だけは・・・ずっと  健やかであられたか・・・」  
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