千願あれど

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三人が踏む一段一段が アツシマミムロの記憶を鮮明に。 「先の・・・・太平洋戦争の  ・・・・あとしばらくで  戦さは終わるという頃だった」 アツシマミムロが瞳閉じれば 昨日のように、一つの家族の姿が ありありと描かれた・・・。 カランと鳴った社の鈴と その前に並んだ若い夫婦に、 歩き始めた男の子、 母親に抱かれた乳呑み子。 その母親はそこの美しい娘に・・・ 身体の大きな父親は 今、老婆をおぶる青年に、   ・・・・・・・・瓜二つ。 「ああ・・・あの方は・・・  あの方はだけはこの年月まで  健やかであられたのだ、健やかで」 何度もアツシマミムロから 同じ言葉が繰り返されると、 狛犬セイはつい、 「父親は・・・戦さで?」 アツシマミムロに尋ねてしまった。 「・・・・どれほどか・・・・  どれほどにか、あの方が、  夫の無事を祈られたことかぁ・・・」 アツシマミムロの嘆きの慟哭は 宮の木立を震わせた・・・。      
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