千願あれど

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 「どうか戦地から無事帰り、   親子四人で穏やかに   暮らせますように」 その祈りを、アツシマミムロが 忘れられようはずもない。 情勢など知らぬ男の子まで  「ように!ように!ように!」 と、ぎゅっとつむった瞼すら アツシマミムロには切なかった。 しかし・・・・ ・・・・父親は帰らなかった。 戦死の知らせが来てからも 朝に夕にと母親は・・・・ あの老婆は・・・・・  「どうか無事に帰りますように」 アツシマミムロの目の前で 懇願の日々を過ごし続けた。 無論アツシマミムロも 祈って祈って祈って・・・・ ・・・・祈り続けたが その老婆の夫が この阿津島(あつしま)の村へ 帰ってくることはなかった。 そして、二年のちのある朝、  「一先ず実家へ戻ります」 そう暇乞いをした老婆。 その日から、ここまでの 終戦より八十年近くの歳月を 迎えたのであった。
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