魔道書修理屋の事情

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 おや、いらっしゃい。  初めて見る顔だが、この店に来たという事は、あんたは魔道士なんだろう?  いいさ、あたしは来る者拒まずだ。あんたの魔道書を見せてごらん。  ……ああー、ぼろっぼろだね。  だが、乱暴に扱ったせいじゃあない。大事に大事に、それこそ命の次に大切な物として持っていた、その証だよ。この表紙の空飛びトード革のすれ具合、アルヴェン用紙とグローナ蒼インクの質の変化、マーティナ金銅石の留め具の錆び具合。どれもこれも、持ち主の愛情が伝わってくる。  よくこうなるまで保たせたものだよ。感心すらしちまうね。  だがあんた。本当にいいのかい? ここが魔道書修理専門の店だって、わかって来たんだろう?  ここまで魔道書を大事にしてきた客は、そうそういないよ。大抵の客は、投げ捨てるかのように乱暴に扱った魔道書を、何とかしろって怒鳴り込んでくる。本当に使い込むほど愛着のある魔道書は、すり切れるまでそのまま使って、その形を大事にする。だから、込めた魔力が尽きた後は、本棚の一番大事な場所に置いておくものなんだが。  ……ほう。どうやら事情があるようだね。  ああ、話さなくてもいいさ。これだけ想いのこもった魔道書だ。あんたの人生も刻まれているだろう? うちのお代は、ヘシング通貨の支払いに加えて、修理の合間にその思い出をちょろっと覗かせてもらうんだ。  はは、大丈夫、大丈夫。恥ずかしい思い出を見たって、他人には黙っててやるよ。
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