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その問いに顔を上げると、加藤は目をしばたかせる。
「お前、知らないで話していたの?」
そして愉しみをこらえるように、にやりと笑った。
◇◇◇◇◇◇◇
僕、古川隆志が美術部に出入りするようになったのは一ヶ月前、一枚の絵に出合ってからだ。
文化祭で展示された美術部員の絵。それに、一目で惹き込まれた。
校舎の窓から校庭を眺めた油彩の風景画。毎日見るありきたりの景色なのに、夕日という色をまとったそれは、なぜか胸が苦しくなるような切なさを湛えていた。真っ赤に染まる世界。放課後の静寂。ふと足を止め、ため息をつく瞬間。誰にでも覚えのある、そんなひと時を呼び起こす絵。
同じクラスの加藤が美術部の部長をやっていると知って、もう一度絵が見たいと言ってみた。以来なぜか毎週水曜日、加藤の自主練に付き合う形で美術室に顔を出している。
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