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捜し物屋
この国には「闇」がある。「闇」と呼ばれる不思議な力が。
誰も見たことも触れたこともない。しかし、それは確かに存在するのだ。
この店は、細い路地を進んだところにある。小さな店、昼間でも灯っているランプの明かりが目印で、木の扉についている小窓には小さなカーテン。内側から窓にぶら下がる木札には、注意書きがあった。
ー『闇の在り処については、お答え致しません』ー
店の主人は、小柄な少年だった。黒い髪がきれいに切りそろえられたショートカットで、大きくはあるが感情のまるで見えない黒い瞳をしている。
「なぁ、黒樹」
呼ばれたのが、彼の名前だった。
彼を呼んだのは、楓といった。そこそこ背の高い、明るく優しい顔つきの男で、この店兼住居に居候している。
「なんで黒樹は、捜し物屋なんてやってんの?」
二人は今、店の丸テーブルにて、コーヒーブレイク中だった。
「じゃあ、聞くけど、なんで楓は働かないの?」
「うわぁ、やぶ蛇だった……」
「そもそも、『捜し物屋』ってなに?」
「捜し物屋だろ?」
「僕はなにも捜しません。捜し物をしてる人を面白いなぁって眺めてるだけ」
一人に情報を提供すれば、噂は勝手に広がった。
ここに来れば、捜しているものを見つけてくれる、と。
「面白いって思ってたのか……」
「思わなきゃ、やらないよ」
小さく「なるほど」とつぶやいたものの、楓はまだわからないという顔をしていた。
見つからないなにかを「捜す人」がいて、手を差し伸べる黒樹がいる。この場合、手を差し伸べてはいるが、善意なのか甚だ疑問だ。
そこまで考えて、唐突に納得をした。
「面白がる、の面白いなのか。なぁ、一番おもしろい客ってどんなやつだった?」
黒樹は、顔色も変えず、「そうだなぁ」と考える素振りをした。
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