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「マラキア。……マラキア。ああ、こんなにつらかったんだね。気が済むまでこうしていてあげよう」
そんな時、天上の調べとよばれる、唯一無二の歌声をその人は惜しみなく聴かせてくれた。
目を覚ますたびに、泣いて言葉を失う私のために。
戦が絶えない国で生まれた私は、物心ついた頃にはひとりだった。
何も覚えていなかったけれど、眠ると悲しい出来事ばかりの夢を見た。
さまよい歩いている私を拾ってくれたのがカネレだった。
カネレは、数え切れないほどの国から、専属の楽師となることを請われていた。
それを全て辞退して市井で暮らすことを選んだ人だ。
歌姫カネレの養い子。
私は、そう呼ばれていた。
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